18時半頃、両対局者が記者会見場に入室。
矢内女流名人が先に現れたが、あらかじめ奥に座ることに決まっていた里見新女流初段に道を譲った。
里見新女流初段に「高校進学後の対局は、どのような”衣装”で臨まれますか」と質問があり、思わず笑い出す矢内女流名人と里見新女流初段のお母さん。里見新女流初段は困惑の表情。
18時50分頃に記者会見は終了。里見親子はすぐに帰郷の途へついた。
図で里見1級は長考の末、▲2六歩としましたが、その中身は▲5七金との比較。以下△6五歩▲6八飛△8六歩▲同歩△7三桂という急戦になります。矢内女流名人はいきなり△6五歩ではなく、△3二銀▲4七金と左美濃を作ってからの仕掛けは考えていたそうです。
数手後の△4四歩では△4二金右と固め、角筋を通したまま、前述の仕掛けを狙う手順もありましたが「そうですよね。よくやる形ですけど、なぜだろう」(矢内)。ということで、今日はあまり考えなかったようです。
図の△7二飛では形では△8四角ですが、矢内女流名人は▲4五歩△同歩▲2五歩の筋を警戒したようです。以下△同歩▲4五桂△4四銀▲2四歩△4五銀(△2四同銀▲同角△4五銀は▲1五歩から攻め立てられる)▲2三歩成△同玉が変化ですが、後手陣の乱れがひどく指しきれません。
図がポイントとなった局面。△8三飛では△7四飛が正着で、以下▲4二角成の強襲にも△同銀▲7四飛△同歩▲8二飛にも飛車を打ち下ろしておいて、一手勝ちでした。
△8三飛に対する里見1級の▲1五歩がやはり急ぎすぎの悪手。本譜のように逆に寄せの手がかりになってしまいました。△8三飛には▲5五歩が正解。
「△8三飛と引いた瞬間に▲5五歩に気付いた」(矢内)、「気付かなかった」(里見)。ここで明暗が分かれました。▲5五歩以下は△同歩なら▲5四歩△7四歩▲6四角△6三歩▲9一角成△8六角成▲8九香△8七歩▲7四飛△8五飛▲7六銀(変化図)が一変化。「これはちょっと」(矢内)、「これなら…」(里見)という展開です。
「端攻めはありがたかった」(矢内)。ここで流れが決まりました。
図では△2五同歩が正解。▲同桂は△2六歩が痛打です。本譜の順は「読みきってはいなかった。(△2三角あたりは)焦っていた」(矢内)そうですが、確実に△1四桂と打ち据え、ゴールを決めました。
矢内インタビュー
里見インタビュー
里見香奈女流1級は本棋戦決勝進出の活躍により、本日付で女流初段に昇段することになりました。
--終わっていかがでしたか。
「思い切って指せたと思います」
--今日の将棋、どのあたりから流れがおかしくなったでしょうか?
「△5九角と打たれてまずいかなと思いました」
--今回の3番勝負は、楽しんで指せましたか?
「(消え入るような声で)はい」
--最後に今日の感想をお聞かせください。
「(間髪入れずに)悔しいです」
--悔しい…ですか。
「はい」
--今のお気持ちをお聞かせください
「終わったばかりなのでなんとも言えませんが…今回の3番勝負は厳しい戦いでした」
--矢内さんは他にも大きな勝負を戦ってこられましたが、この3番勝負、いつもと違うところはありましたか?
「何が違ったって言われると…マスコミの皆さんが違いましたが(笑)、私もこんなに大勢の方に取材されて対局するのは初めてなので、いい経験になりました」
--今日の将棋は、どのあたりで勝ちになったと思いましたか?
「飛車を取り合ったところでは勝てるかなと思いましたが…、早く寄せるにはどうすればいいかわからなくて…、(盤を覗き込んで)最後の△3八銀打で勝ちになったと思いました」
--この3番勝負についてお聞かせください。
「最初に負けてしまって、後がなくなってしまいました。でも”もう負けられない”というので吹っ切れて思い切り指せたと思います。第1局に負けたことが却ってよかったのかもしれません」
レディースオープントーナメント
2006・決勝3番勝負第3局は17時8分、130手にて矢内理絵子女流名人の勝ちとなりました。消費時間は▲里見1級180分、△矢内女流名人180分でした。
矢内女流名人は8年ぶり2度目の優勝となります。
里見1級の懸命の粘り。△2三角~△4一角と銀を払われても、▲2九歩で最善の頑張りを見せる。
まだ、あきらめていない。